「小夜子……」
切なげに名前を呼ばれると、ますます罪悪感が募る。小夜子はスカートを握りしめた。
「小夜子の言う通り、俺は嘘つきかもしれない。──けどね」
ふわりと、真郷の香りがした。どこか懐かしいような気持ちになる、小夜子の一番好きな香りだ。
「俺は小夜子が好きだよ」
真郷はまっすぐ、小夜子を見据えた。
「うそ……」
「嘘じゃないよ。小夜子が好きだ。初めて会ったあの日から、ずっと」
声が震える。小夜子の瞳から涙が零れる。その雫を真郷は指で拭った。
「今まで本当のこと言えなくてごめん。伝えたら、もっと小夜子を苦しめると思ったんだ。だからどうしても言えなかった」
「……そんな事、今聞いたら余計につらいよ」
ずるい。こんなタイミングで、そんなに優しい言葉を向けるなんて。
真郷の胸に顔を埋めれば、彼の鼓動もまた、小夜子と同じくらい高鳴っていた。
「好き……私も、真郷くんが好き……好きなのに……」
今まで押し殺していたその想いが、考えるより先に唇を割ってくる。
そんな小夜子の髪を、真郷の指先が優しくなでた。
「俺、戻ってくるから。小夜子のこと、大人になったら迎えに来るよ。だから、それまで俺のこと……」
「好きでいるよ!真郷くんだけだから。私が好きなのは、ずっと真郷くんだけだから……」
そう答えれば、真郷はいっそう強く小夜子の身体を抱きしめた。



