立て付けの悪い扉を開ければ、埃の臭いに咳き込んだ。けれど、その奥にある闇が、とても恋しかった。
灯りを点すことなく、小夜子は中に足を踏み入れた。奥に進むと、使われていない古びた体操用のマットが重ねられていた。
そこに腰をおろすと、膝を抱えるように蹲った。
「真郷くん……」
それでも変わらない、行き場のない真郷への想いは、余計に小夜子を辛くさせた。
そんな時、がらりと扉を開ける音が響いた。
「小夜子、居るの?」
真郷の声だ。床の軋む音もする。ゆっくりと近付いてくる足音に、小夜子の心臓が跳ね上がる。
「来ないで!」
そう叫ぶと、足音は近づくのを躊躇うように小夜子のすぐ手前で止まった。
「嘘つき……!嫌い……大嫌いよ……」
拒絶する声も、もはや掠れきってしまった。それでも、真郷に顔を見られたくなかった。早く、嫌な女だと自分を見捨てて欲しかった。



