全てを聞き終える前に、小夜子はその場から立ち去った。教室へ戻る途中、出くわした夏哉が首を傾げた。
「姉さん、どうかしたのか?顔色悪いけど」
「ううん、なんでもないよ。学校、久しぶりだから……ちょっと疲れたかも」
「そうだな。あんまり無理するなよ」
「うん。ありがと……」
夏哉は目を細めて頷いてから、はっと何かに気付くと、小夜子の後ろに向かって手を振った。その視線を追って小夜子も振り向く。
「久しぶり、二人とも」
そこには、先ほど職員室で見掛けたばかりの真郷が立っていた。
「ごめんな、心配かけて」
そう言って頭を掻く夏哉に、真郷はいつもの調子で微笑んだ。
「いいって。でも、二人が居ない間に校内が卒業ムード一色になってるけど」
「あ……もう、そんな時期なんだね。なんだか寂しいな……」
「そんなに心配しなくても、高校に行ったって
今まで通りだろ?オレたちは。なぁ、真郷?」
いつもなら、真郷は優しく笑って、すぐに答えてくれる。小夜子は真郷を見上げた。
「……」
真郷は明らかに焦ったような、動揺の表情を浮かべていた。口の端を無理やり吊り上げてはいるが、瞳が揺れている。
「ま……真郷くん?」
思わず声を掛けた小夜子に、真郷はまた口元をひきつらせた。
「そ、そうだな……今まで通りだよ、これからも」
──嘘だ。
小夜子は真郷の答えに絶望した。
真郷はきっと嘘をついている。その理由はわからないが、今、決定的になったことがある。
“真郷はこの村から出ていく”



