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小夜子の首にオシルシが現れてから、彼女の真郷に対する恋情もまた、深いものへと変わっていた。
しかし、それは最悪のタイミングで訪れる。
「深見くん、志望校合格おめでとう」
「ありがとうございます。先生のご指導のお陰です」
「……いや、君はもとから頭が良いからね。成績も申し分なかった。東京でも上手くやっていけるさ」
職員室の前で、小夜子は足を止めた。
『東京』 ?
声の先には、進路指導の教師と真郷の姿があった。心臓が早鐘を打つ。小夜子は二人の会話を無視することが出来なかった。
「でも驚いたな。てっきり隣町の高校に行くと思っていたよ。ゆくゆくは深見屋敷の跡取りだろう?」
「いえ、深見を継ぐことはしません。最初から、東京に帰るつもりでした」
最初から……。
小夜子はぐっと拳を握った。
傍にいる、ずっと一緒にいる……あの言葉は、すべて虚言だったのか。



