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夢の中。
何もない、暗い場所。目前には真郷が立っている。
「真郷君」
呼び掛けると、彼は哀しげに微笑んだ。
「小夜子は、選ばれたんだな」
「選ばれたって……何に?」
「夜叉様だよ。ほら、オシルシがある」
ハッとして、小夜子は首に手を当てる。
「小夜子は夜叉様の花嫁だ。だからもう、一緒には居られない。さよならだね、俺達」
「待って!嫌よ、私オシルシなんて知らない!真郷君の傍に居たいの!」
真郷に手を伸ばした時、何かが首に絡み付いて呼吸ができなくなった。
「ひゅー……ひゅー……」
息苦しさの中、小夜子は見た。
自分の首に巻き付いているのは、白い蛇だ。
それは血の様な禍々しい赤い瞳で小夜子を見据えている。
『逃ガスモノカ……我ガ花嫁……』
その声は、人間のものではなかった。
しかし、声はもうひとつあった。
『姉さん……』
自分を呼ぶそれは、優しい声。
「な……つ……」
宙を舞っていた手を、誰かが強く引いた。



