このままでは真郷まで巻き込んでしまう。
慌てて、取り落とした買い物袋を抱えると父の元へ走った。
「ごめんなさいお父さん。お酒、ちゃんと買ってきたから……」
酒を取り出そうとした瞬間、小夜子は強い力で頬を殴られて転倒した。自分の身に何が起こったのかも理解できないまま、地面から自力で起き上がることさえできなかった。
ただ、衝撃による生理的な涙が頬を伝ってゆくのは感じられた。
「……っごめんなさい……ごめんなさい……」
ごめんなさい、だから真郷君には何もしないで。
そう繰り返すことしか、もはや不可能だった。
父が怒鳴っている。きっと今度は蹴られて踏みつけられる。いつもそうだ。いつも。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
ごめんなさい、真郷君。
ごめんなさい、お父さん。
「ふざけんなよ!暴力ふるって何が父親だ!小夜子がどんなに辛いか、痛いかわかってんのかよ!?」
小夜子の耳に、真郷の声は鮮明に届いた。次にやってくると思った衝撃もなく、暖かいものに守られている気がした。
父の暴力から、真郷が庇ってくれたのだ。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
真郷を巻き込んでしまった。嫌な思いをさせてしまった。
「お願い……嫌いにならないで……」
夢と現の境で、小夜子は懇願した。そして同時に意識を手離したのだった──。



