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初夏の風が揺らぐ。
木々のざわめきは無く、穏やかな木漏れ日が石畳にそそいでいる。
午後から大人達は村の会合があるらしく、その都合で授業は午前中だけだった。
真っ直ぐ家に帰る気にはなれず、小夜子と夏哉は神社まで足を伸ばしたのだった。
ぱん、と手を合わせ、小夜子は目を閉じる。ひとしきり願掛けが済むのを見届けると、夏哉は口を開いた。
「姉ちゃんさ、昔から熱心にここ通ってるよな。いつも何お願いしてんの?」
小夜子はあの日の出来事を誰にも話していない。知っているとすれば、願掛けを提案した美那江だけだ。
その美那江とも、あの日以来なんだか疎遠になってしまった。避けられているとかではない。ただ、遠くの人のように思えるのだ。



