──数日後、母は朝霧の家を去っていった。
母が居なくなってから、父による小夜子への暴力は激化した。
恐らく、母親似の小夜子を見ると苛立つのだろう。酒の量も増え、部屋中に空き瓶が転がっている。
そんな父を、夏哉は軽蔑しきっていた。
「あの女も母さんじゃないけど、あの男も父さんじゃない。オレの家族は姉ちゃんだけだよ」
散らばった瓶の欠片を拾いながら、夏哉は虚ろな目をして呟いた。
そんな夏哉を見て、小夜子は母がもたらした疑念を自分の胸に秘めておくほかなかった。
“あの子は夏哉じゃない”
その言葉の真意はわからない──いや、わかりたくない。
夏哉は夏哉だ。他の誰でもない、たった一人の弟。
何も聞かなかったことにすれば良い。
「ナツ、私たち──ずっと一緒だよ」
そう返せば、夏哉は嬉しそうに笑った。



