そんな暴力に怯える日々は続いたが、子供の成長は早いもので、いつしか小夜子は小学校の高学年に進級した。
それと同時に、母の口から両親の離婚を知らされた。
「──お母さんね、お父さんと別れることになったの。この家はお父さんのものだから、東京の実家に帰るわ」
疲れきったように、母はそう漏らした。
小夜子は半ばこうなるだろうと諦めていたので、驚きも悲しみもしなかった。
ただ、機械的に頷いた。
「──うん」
見慣れた居間の風景が、色を失っていく。裸電球がうすぼんやりとした光を放っている。
「それでね、小夜子。あなたはお母さんと東京に帰りましょう」
唐突な誘いに、小夜子は目を見開いた。喉が渇いて、ひゅっと息がもれる。
「ナツはどうするの」
「あの子はこの村の子だもの。お父さんが引き取るわ」
母はくっくと喉を鳴らして笑った。



