その場に取り残された小夜子は、わけもわからず、ただ呆然と立ち尽くしていた。
そしてふいに我に返ると、人気のない深見の裏庭から逃げ出した。
走って、走って、走って。
小夜子はいつの間にか、夜叉比女神社の前まで来ていた。
息を整えながら、鳥居へと続く階段を見上げる。
「小夜子ちゃん?」
唐突に声を掛けられ、小夜子はびくりと身体を震わせた。声の主は、驚いたように目を丸くしている。
「あ……みなえお姉ちゃん……」
「まぁ、どうしたの。男の子達に虐められたの?」
みなえお姉ちゃん、というのは、村長の一人娘、堀川美那江のことだ。彼女は小夜子より七つ歳上で、美人で優しい、小夜子の憧れの存在だった。
美那江はスカートのポケットからハンカチを取り出すと、小夜子の涙を拭いた。
「ちがうの……お友だちが、いなくなっちゃったの……。きょうもあそんでくれるって言ったのに……」
また、小夜子の瞳からポロポロと涙が溢れた。
「わたしのこと……きらいになっちゃったのかなぁ……?」
美那江は優しく、小夜子の頭を撫でた。



