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村の中では一際目立つ屋敷、深見家の裏庭を、小夜子は昨日と同じように覗き込んだ。
しかし、肝心の少年の姿が見当たらない。庭の奥の縁側にも、さらに奥の部屋にも、人の影はない。
「まさとくん」
呼び掛けにも、呼応する声はない。
小夜子は不安になって、もう一度声を掛けた。
「まさとくん……いないの……?」
やはり、返事は帰って来なかった。
じくじくと、急速に不安感が押し寄せる。
じわり、と視界が曇った時、縁側の奥で人影が揺れた。
小夜子が期待に胸を弾ませ、目で追った其処には。
──和服姿の厳格そうな老人が立っていた。
老人は小夜子をジロリと鋭い目で一瞥する。子供の間では、かねてよりこの家の主は怖いと恐れられていた。
小夜子が声も出せずにいると、先に相手が口を開いた。
「どこのもんかと思ったら、朝霧の……。人の家になにか用事か」
「ま、まさとくんとあそびに……」
まさと、と口にすると、老人は不快そうに顔を歪めた。
「そんな奴は居らん」
「えっ?」
「うちにそんな奴は居らんと言ったのだ。他に用がないならさっさと出ていけ」
ピシャリと冷たく言い放つと、老人は部屋の奥に入り、再び顔を出すことはなかった。



