「ごめんね。私、知らなくて──こんなの聞いたら、帰るって言っても、真郷くんのこと責められない。それに真郷くん、自分だって辛いのに、いつも私のこと心配してくれてたんだよね。それなのに……」
うつむく小夜子の頭を、真郷はポンポンと優しく撫でた。
「ほら、そういう顔しない。俺は小夜子に笑ってて欲しいからそうしたんだ。だから、笑って」
顔を上げた小夜子は、少し困ったような、いつもの愛らしい笑顔を浮かべた。
真郷はそれが愛しくて、自然と表情をゆるませる。
「大好き、真郷くん」
その声が、その言葉が、その表情が……小夜子の全てが、どうしようもなく愛しく感じた。
それと同時に、真郷の中にある母への嫌悪が増幅していくのも、どうしようもない事実だった。



