「またかよ……また親父がやったのかよ」
夏哉は視線を父親に移動させると、憎悪で顔を歪ませる。
小夜子を再び真郷に預け、夏哉は父親の胸ぐらを掴み上げると、横面を殴り飛ばした。
中学生といえど、発育の良い夏哉には簡単なことだった。
父親はその場に倒れ込んだが、夏哉は暫く何もせず、ただ無言でその姿を見つめていた。
そして、不意に振り返る。その顔は、ひどく穏やかなものだった。
「──巻き込んで、悪かったな。ごめんな、真郷」
真郷は首を振った。
哀しいような、やるせないような。
「姉さんは、暫くしたら戻るから。送ってきてくれたんだろ?ありがとな」
未だに上の空で謝罪を繰り返す小夜子を支えながら、夏哉は微笑んだ。
「また、明日な」
そう続けた夏哉に、真郷は頷くのが精一杯だった。



