それでも何も言わなかったのは、真郷自身、薄々感付いていたからだ。
自分を殴った母の情夫が、暴力団員だった事に。
あの時見えた龍は、刺青。そして、虚ろな目は確かに、人を殺した目だ。
顔を見られた真郷が、何らかの報復を受ける可能性がある事を、父は危惧しているのだと。
「俺、大丈夫だから。あっちに行っても上手くやれる。十六になったら、約束だよ」
指切りをすると、父の後ろで不安そうな顔をしていた母を見た。
「宜しく、母さん」
母の実家には、小さな頃よく遊びに行った記憶がある。
長野の田舎で、緑に覆われた閉鎖的な村、夜叉淵村。
既に他界した祖父は、気難しい人だった。
祖母は祖母で、父と母の結婚を認めていないようだったから、真郷に向ける視線も冷たいものだった。



