「お、お父さん……」
小夜子はビクリと肩を震わせて、慌てたように男に駆け寄る。
「ごめんなさい!ごめんなさい!遅くなって……お酒、ちゃんと買ってきたから……」
「……」
こんなに取り乱した小夜子は見たことがない。
真郷は呆然とその様子を見ていたが、次の瞬間。
パァン────ッ…
乾いた音が、鋭く響いた。
小夜子は突然の衝撃に、身動きもできず地面に叩きつけられた。
買い物袋から投げ出されたものが、あたりに無惨に散らばった。
訳もわからず、小夜子は痛みを感じる頬を押さえて、憤怒の表情を浮かべる父親を見上げる。
「この愚図がァッ!どれだけ待ったと思ってる!」
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
「何だぁ?その目は!俺を馬鹿にしようってのかぁ!?」
もはやそこに、まともな理性の会話は無かった。
うわ言のように、小夜子は謝罪の言葉を述べている。
父親は、そんな小夜子に向かってなおも蹴りを入れようとした。



