「真郷くん……ここで、大丈夫だから。ありが……」
小夜子がそう言い掛けた時、男の怒号が響いた。
「小夜子ォ!遅えぞぉ!どこまで酒買いに行ってやがんだァ!?」
ガラッと音を立てて玄関の戸が開いた。
「あっ……!」
現れた人物を見て、小夜子が小さく悲鳴を上げた。
真郷は息を飲んで、その姿を捉える。
どこにでもいそうな、中肉中背の男だ。しかし、アルコールで目付きは虚ろになり、肌着に汚れたズボンという粗末な身なりをし、怒鳴り散らしながら此方へ向かってくる点は異常だ。
この、目前に迫る醜悪な中年男が、小夜子の父親なのだろうか。
真郷の疑心が確信に変わるまで、時間は掛からなかった。



