堀川美那江。

あの不気味な女の顔が、フラッシュバックする。

「真郷……お前も知ってるはずだ。見ただろ、祭りの日」

「え……?」

何を、と訊く暇はなかった。
言葉に詰まった真郷に、夏哉はくるりと背中を向ける。


「──巫女だよ」


真郷はその一言に戦慄した。

二年前の、この季節。

鼓膜に残る祭り囃子の音。浴衣の薄紫。
溶けた林檎飴の甘い香り。
太鼓の音は心音に似ていた。

激しく、激しく、激しく。

そして、舞い散る、赤。

漆黒の髪と、白い肌のコントラスト。

激しく、激しく、激しく。

神楽は止まない。


「──綺麗だ」

そして自分の唇は、その言葉を紡いだ。

降り始める、終焉の雨。