無我夢中で走って、村人の姿が見える場所まで逃げた。
二人は息を切らしながら、お互い目を見合わせた。
「何だったんだ、あれ……」
夏哉の第一声に、真郷は首を振った。
「分からない……。でも正気じゃなかったよ……あんなの……」
まだ肩の感触が生々しい。思い出しただけで、背筋がぞくりとする。
長い黒髪を振り乱し、充血した眼は焦点が合わずに動き回っていた。
血色の悪い肌は青白く、乾いた唇の端から涎を垂らし、その姿はこの世の何より醜悪だった。
「何なんだ、あんなのが村に居るなんて薄気味悪い……」
夏哉が顔をしかめながら、九郎のリードを真郷に渡した。
「きっと九郎は、お前に害があると思ったから吠えたんだな。……一応、気を付けろよ。オレよりお前に興味あるみたいだったから」



