九郎が人に向かって吠えるのは珍しい。
仔犬の頃は、しばしば吠えることもあったが、そんなことは今は滅多に無い。
「こら九郎、知らない人に向かって吠えちゃ駄目だろ」
真郷が言っても、九郎は警戒を解かなかった。
不思議に思って再び女を見ると、目が合ってしまった。
「……こっち、来る」
夏哉が、小さな声で呟いた。
女の姿がはっきり見える距離まで近付いた時、真郷は息を飲んだ。
「呪ワレロ呪ワレロ呪ワレロ呪ワレロ呪ワレロ……」
女性は能面を張り付けたような不気味な笑みを浮かべながら、壊れたラジオのように同じ言葉を吐いていた。



