ピアニストと野獣

「ねぇ、空の好きな人のこと知ってる?」


私は稲葉さんにおもむろに聞いてみた。


「…。」


返事が返ってこないからどうしたのか顔を上げてみると、稲葉さんは目を見開いて驚いた様子である。


━━まさか、知らなかった?


「えっと……。」
「知らないの…?」


「…ほぇ?」


驚きすぎて思わず変な声を出してしまった。


その声を面白がって稲葉さんに笑われた。


「…知らないけど、何かあるの?」


稲葉さんは目尻に溜まった涙を脱ぐって思い出したように話した。


「あー…。アメリカにいる“マミ”さんでしょ?
あの人、私たちが中一の時に高二で唯一のJPだったわけ。」