ピアニストと野獣

私は俯き加減で立ち上がりその場を去った。


途中、誰かに名前を呼ばれた気がしたけど、振り向かずに行った。


とりあえず水道場に行って泥を洗い流し、左頬を冷やした。


「――はぁ…。」


「大丈夫?」


「!?」


聞き覚えのある声に驚き顔をあげると予想通り、陸がいた。


「何で……こんなところにいるのよ…。」


その質問に陸はニコッと笑い、

「それ、昼間と同じ質問。」


「…。」


なぜかその何でもない言葉に私の心は救われた気がした。