ピアニストと野獣


「別に。」


そう言って私の手を引っ張った。


“別に”…?


絶対怒ってるし!!


「大ちゃんまたねー!」


ピラピラと手を振る。


大ちゃんは笑顔で振り返してくれた。


てか…


「手、痛いよ!西園寺!!」


叫んでも完全無視。


―――わ、私が何をしたって言うのよー!


理不尽な西園寺にムッスーとしていたら、西園寺がいきなり止まった。


「さい―――」


辺りを見渡すと人気のないところに来ていた。



「俺さ…」


ゴトン…





「独占欲強いんだよね。」




背を向けたままで顔をこちらに向けた。


その瞳は優しいものじゃなくて、鋭い瞳だった。



「な、何言って――」



思わず西園寺の視線から逃れるように顔を下に下げた。



「あー…。ごめんね?困らせちゃった。」



いつもの優しい声が聞こえてきたから、チラッと頭を上げると優しい顔をしたいつもの西園寺がいた。



「じゃ、帰ろっか。」



西園寺はそう言って私の手を離した。



ズッと握られたままだったから何だか手が寂しく感じた。



―――変なの…。



私は自分の手のひらを見つめた。