ピアニストと野獣

「別に泣いたって大丈夫。」


「え。」


それと同時に背中に伝わる温もりと、ふんわりと香るラベンダーのにおい。


―――これが西園寺のにおいなんだ…。


それはとても心地よく、いつまでも続くといいな…。

なんて思ってしまい、思わず前にある西園寺の腕に手を添えた。



―――カタン…



外の音が大きく聞こえるくらい辺りは静かだった。


そんな静けさを破ったのは西園寺だった。


「――沙羅が…どんなに泣いても大丈夫。沙羅が、どんなに崩れても大丈夫。俺が側にいるから。俺が絶対守るから。」


そんな西園寺の寒い言葉でも、私の枯れていた心が満たされていく気がした。


「うん…。ありがと。」


それでも不器用な私は素っ気ない返事をしたんだ。