ピアニストと野獣

「何よ…。」

私は思いっきり眉間にシワを寄せて、西園寺の方を向いた。


向いた先には、見たこともない西園寺の顔がある。


「――怒ってんの?」


「違う。」


いや、怒ってるよ。

怖いもん…。


おずおずと後退りをする私の腕を西園寺はがっちり掴んだ。


「――痛っ!ちょっと!力強いよ!放して!」


私の腕を掴んでいる西園寺の手を振り払おうとしても払えない…。


口を一文字(いちもんじ)にしていた西園寺がやっと口を開いた。


「俺を好きになれよ…。」


「は?」


「だから、俺を好きになれって言ってんの!」


真っ直ぐ向けられた西園寺の視線が痛かった。