ピアニストと野獣

「―――でも…。」


私はまだ空が好きなんだもん。


中途半端はできない。


そんな私の気持ちを知ってか知らずか、陸はとんでもないことを口にした。



「俺を“空”だと思って。」


「えっ!?」


冗談を言っているのかと思ったが、そんな様子ではない。


本気なのだ。


――どうしよう…。


そんなこと…。


「そんなこと…できるわけないじゃない…!」


そう言うと、視界がぼやけ、自然と涙を流していた。


「陸は…陸だもん。……空じゃ…ない。」


ぐずぐす泣いている私の顔を、陸の大きな手が包み込む。


そして、静かに話しだした。




「――いつもなら嬉しい言葉が…今は辛い。……今ほど空と同じがいいと思ったことはないよ…。」


この陸の言葉が私の胸に突き刺さる。