ピアニストと野獣

「昨日、陸に怒鳴られたんでしょ?…だから私は怒鳴らないでおくね。無駄な説教もしない。でも―――」


突然話を止め、少し後ろに下がったから、空は不思議そうに顔を上げた。



ヒュッ!


―――ズコッ!!ドサッ!


「蹴りだけは勘弁してね!」


私の回し蹴りがクリンヒットし、目をぱちくりさせる空を私は見下ろし、ニッコリと笑顔で言ってさっさと教室に戻った。



―――ったく…。


世話がかかるわ…。


「さ、沙羅さーん…。」


「ん?どうしたの?」


申し訳なさそうな声をあげて私の席の前に立つのは西園寺だった。


「すごい回し蹴りだったね…。なんで回し蹴り?女の子なら“ふざけないでよー!”って、平手打ちじゃないの?」


「ぶっ!何それ…。」


思わず吹き出した私に西園寺は少し照れた表情で、私に抗議してきた。


「あ、あのなぁ!俺は一般論を言っただけで…」


――おもしろ…。