ピアニストと野獣

「空ー?」


私は廊下でたそがれている空に声をかけた。


「ん…?何?」


ぼんやりしていたせいか、よほど眠かったのか、少し元気がないように感じた。


「――真美姉さ、明日出発するんだって…。知ってた?」


私は様子をうかがうようにチラリと空を見た。


「―――うん…。知ってる。」


空の表情はちょっと長めの前髪で隠れてよく分からなかった。


でも、誰よりも真美姉が旅立つことに戸惑っているのは、空だってことはよく分かった。


だから余計に腹が立った。


陸が怒鳴った気持ち、今ならよく分かる。



私は怒鳴ることはせず、静かに話した。


「空さ――――……」