…これはレアなケースなのだろうか?
ベッカーは腕を組んで考え、『提案があるのですが…』と彼に向き直った。
『あなたの記憶を呼び覚ましませんか?』
『記憶を…呼び覚ます…?』
ベッカーは彼の欠けた記憶の中に答えがあると確信した。
…ならばそれらを取り戻せば…。
『…出来るんですか?』
『一過性の記憶喪失であれば潜在的にはちゃんと覚えているはずです。…出来ます。』
少し語尾に力が籠る。
この時ベッカーは彼の言葉に困惑したが、多少なりとも好奇心があったのかもしれないと思う。
だからダンが首を縦に振った時、妙に安堵したのだ。
『…いずれこの胸の靄も晴れる…。』
ロビーで独り言を呟き、彼はゆっくりと立ち上がると病院を後にした。

