とある堕天使のモノガタリⅣ ~TORAH~





何故病院という所は何処に行ってもエタノール臭いのか…。



ベッカーは医者らしくない事を考えながら真っ白く清潔感たっぷりな廊下を静かに歩く。



自分の病院は基本薬品を扱う事が少なく、久々に他院に来るとその臭いに酔いそうになる。



彼は不快な表情を隠し、手にしたカルテに視線を落とした。



─“ダニエル·M·ミラー”



…確かあの刑事だ。



何かとよく会う彼にベッカーは運命的なものすら感じてしまう。



そんな非科学的な事を考えながら病室の扉をノックした。



『お久しぶりです、Dr.ベッカー。』



『災難でしたね、刑事さん。』



『ハハハ。災難って訳でもないですよ?なんせ、怖い思いをしたのを覚えてないんですから。』



そう言って笑う彼の顔を見て、ベッカーは瞬時にそれが嘘だと解った。