とある堕天使のモノガタリⅣ ~TORAH~




『俺がこうして来たのはお前の見舞いってのもあるけど、何があったか知りたかったからさ。』



上司の命令だというのは口にしなくても判ったが、何より彼が本当に知りたいと思った方が大きいようだ。



『何も思い出せないか?あの日…あの時何があったのか…』



『…あの時…俺は…』



…“彼等”を見た。



純白の翼と…深紅の瞳…



そしてもう一人…居た。



『…“マスティマ”…。』



『…は?…何だって?』



思わず声に出して呟いてしまい、ダンは『いや、なんでもない』とその場を取り繕う。



『まぁ、思い出せないなら仕方がないな。』



そう言って同僚は立ち上がるとダンに背を向けた。



が、扉に手を掛けたところで思い出したように彼を振り返った。



『そうそう。上司からの伝言だ。“明日、Dr.ベッカーがそっちに行く”…だそうだ。』



それだけ言い残し、同僚は『じゃあ』と手を軽く挙げて去っていった。