その日、虎太郎の目覚めは穏やかとは言い難いものだった。



人間界に逃げて…いや、右京の補佐として降りてから数日経ったが、意外と“平和”だなと思っていた。



クドラクの過剰な世話には最初うんざりしたが、慣れてしまえばどうってことない。



特に朝は弱いらしく、いつもの小言を聞く事はほとんど皆無だった。



だが、その日だけは珍しく虎太郎の部屋を訪れ、彼の不機嫌な口調で起こされる。



虎太郎は朝一からクドラクの小言を聞く気にはなれず、敢えて起き上がりもしなかった。



『虎太郎さん…朝早くから申し訳ないのですが…』



『うん…』



『私には解せない事態が起きまして…』



『うん…』



『はっきり申しますと、迷惑なんですよ…』



『うん…』



『たかがセイレーンごときにデカイ顔されるのは…』



『…うん…!?』



虎太郎は“セイレーン”という単語に反応して飛び起きた。