『それじゃ、7時半にいつものところで』
圭君はそう言って、電話を切った。
私は垂れ目だから、どうしても幼く見られがち。
それを努力に努力を重ね、目一杯大人っぽく見せようとする。
化粧も、服も、アクセサリーも。
圭君のチョイスする店に、少しでも見合うように。
圭君との待ち合わせは、大体が駅の構内にある噴水の前。
夕方になると水中のライトが点灯し、水面をきらびやかに揺らす。
駅ビルの中にあるパン屋さんから、甘くて香ばしい匂いが漂っている。
お腹、空いたな…。
自分のお腹にそっと手を当てる。
昔よりずっと凹んだ私のお腹。
でも、そこはまだ柔らかく膨らんでいる。
「亜樹、お待たせ」
7時半になるより早く、圭君の声が聞こえた。
「ちっとも待ってないよ」
「そうか?そりゃ良かった」
つかつかと私の真正面、鼻先がくっつきそうなくらいまで距離を縮めて、圭君が目尻を下げて優しく微笑んだ。


