星羅についていった夜、私はシステムも理解しきれないまま星羅に場内指名を入れた。


『“ゆい”って言うんだ?』


席に着いて、ようやく星羅の名前を聞き、私の名前を聞かれた。
受け取った真っ黒な名刺には「星羅―SEIRA―」と白抜きで書かれてある。
職場では絶対見掛けない、真っ黒な名刺。
それに、“せいら”だなんて女の子みたいな源氏名。
ソファーに腰掛けて、やっと自分がとんでもないところに来てしまったということに気付く。
それをあっさり払拭したのは、『ねぇ、名前教えて?』と満面の笑みで聞いてきた、私の正面に座っている男の子。


『どういう漢字?』

『“結ぶ”に“衣”』


私の名前を、テーブルに置いてあったコースターの裏に書いている。


『えーと…これで合ってる?俺、漢字苦手でさ』


差し出されたコースターには、“結衣(美人OL)”と書かれていた。


『やだ、なにこれっ!』


思わず笑い出してしまったのは言わずもがな。


『いいじゃん、事実なんだし。美人じゃなきゃ、俺は声掛けないよ』


あまりに毒気なく言う星羅に、私は舌を巻いてしまった。