「沙絢(さあや)さん?」
斜め後ろから彼女のハンドルネームを呼ぶと、彼女は俺の方を向いて、ぱあっと顔を綻ばせた。
「碧さんですか!?」
甲高い声が、彼女のあどけなさを助長させる。
この子が今日の俺のお客。
俺は客を選べる立場じゃないけど、それでもやっぱりお客は可愛い方がテンションが上がる。
「碧です。初めまして」
「こちらこそ、初めまして。沙絢です」
照れ臭そうに微笑む彼女に、こりゃあ今日は俺がリードしなくちゃだなとすぐさま頭が働いた。
メールによれば、彼女の希望は俺との原宿デート。
サイトの写真とプロフィールだけ、つまりは殆ど顔だけで俺を指名してくれたわけだから、「実際に会ってみたら退屈でした」だなんて思わせたくない。
それが俺の…“男”としてのプライド。
「それじゃ、行きましょうか」
口角を吊り上げたまま、俺は沙絢に促した。


