「…びっくりしたあ」
「はは、ごめん」
いつも表情の乏しい伊藤さんが笑っている。
(まひるや、うちに所属している子達には甘いみたいだけど)
訝しげに私が小首を傾げると、伊藤さんは私のデスクの上にペットボトルのオレンジジュースを置いた。
私がよく飲んでいるメーカーのやつ。
「奢り。いつもお疲れさん」
意外すぎる伊藤さんの行動に、私はぽかんと口を開けて伊藤さんを見上げた。
「あ、有り難うございます…」
伊藤さんとはここに入社した時から一緒に働いているけど、こんなことは初めてで、お礼の言葉がスムーズに出てこない。
何より、部下の飲んでいるものなんて興味なさそうだと思っていたのに。
「おう。一足先に結婚祝いだ」
さらりと言ってのけた伊藤さんの言葉に、私は耳を疑った。


