「あらら、美和子が来たみたいね」
よいしょ、とお母さんが立ち上がって出ていった。
私は気にせず、花形にくり抜いた人参を口に入れる。
お母さんが抜けた後の炬燵は、少しだけ広い。
それでも馬鹿嫁が遠慮もなしに足を伸ばしているから、炬燵の中はやっぱりせせこましい。
「お義姉さんは、誰か連れて来ないんですかあ?」
マスカラがばさばさの汚い睫毛をしばたたかせながら、嫁がぼやいた。
人参が花の形ごと、私の喉を流れていく。
お節の数の子に手を伸ばした将の手が、ぴくりと一瞬止まった気がした。
「…別に」
自分でも、驚くほど低く重い声が出た。
大人の対応をしなくちゃいけない。
そう分かっていながら、感情はついていかない。
嫁のその発言は、何の気なしに口から出たのだろう。
それでも、無邪気は悪だ。
悪意のない悪が、一番質が悪い。


