「行かない」
『具合でも悪いの?』
私の不機嫌な声をすぐに察知できるのが圭君の能力。
それを適当に交わすのが私の技なのに、今はそんな上手いことができるだけの余力もない。
『…なあ、おい、大丈夫か?』
黙り込む私の鼓膜に、聞いたことがない程に低い声が響く。
「大丈夫…」
『大丈夫じゃねえだろ、それ』
圭君のお節介さに、苛立ちが募る。
ほっといて欲しい。関わらないで欲しい。
どうせ、大して心配なんてしていない癖に。
卑屈に考えてしまうのに、どうしてか見放されたくなかった。
『亜樹、お前の家ってどこだ?』
「何でそんなこと聞くの?」
『今からそっちに行くから』
普段の私なら、「嫌だ」とか、「やめてよ」だとか、意地悪な拒絶の言葉しか出てこなかったと思う。


