「親知らず?」
「私は生えてきたことないんだけど、友達が親知らずが生えたっていう時にやっぱりかなり苦しんでいたから…」
そう言えば、どこかで聞いたことがある。
親知らずが生えてくる時は、大人でも仕事を休む程の痛みを伴うとかなんとか。
私の歯に起こっているのは、そういったものだろうか。
「どうする?今日は早退する?」
困惑しきった顔で、村田さんはそう提案してくれたが、今日は出勤人数も少ないしそんなことはできない。
「平気です…ちょっと、頬っぺた引き攣るけど」
なんとか笑顔を作って、私はそう返答した。
「無理しなくていいよ?」
「いえ、あと2時間で上がりですし」
「…そう?」
私の頑固さに、村田さんも折れたようだ。
「それなら、鎮痛剤飲んできなさい。私、持ってるからあげる」
「鎮痛剤?」


