しなやかな指先が、頬を撫でた。


「結衣(ゆい)、今日も有難う」


彼は何の躊躇いもなく、私に唇を重ねる。
エレベーターの中で、私が得られる数分間の優越感。


「星羅(せいら)に会いたいから来てるだけだもん」


ツンと涼やかにそう言い放って、今度は私から星羅にキス。


「俺も、こうして毎日結衣に会えるのは嬉しいよ」


4階から1階に降りるエレベーターはあっという間で、エレベーターから降りた途端、私はさっと身体を放した。
本当は、その体温が名残惜しくて仕方ないのに。


「明日も仕事頑張ってね」

「星羅もね」


星羅は私の前では、笑った顔以外見せたことがない。
若干20歳で、ここまで出来た人間は今まで出会ってきた男の中にはいない。
屈託の無い笑顔の裏側は、私には絶対見せないんだ。
嬉しい半面、心を開いてくれていないような気がして、私は悔しくてどうしても無愛想な態度を取ってしまう。
そう、今みたいに。
私に手を振る星羅に背を向け、振り返ることなく、私は歌舞伎町を颯爽と歩く。
終電まで、あと15分。















「篠崎さん、今日残れる?」