大学生の片桐さんはいつも、店の一番奥の席に座って、そこで勉強をしていた。
絵を描いている時もあった。
片桐さんは私を妹のようにかわいがってくれた。
お母さんの具合が悪くて、落ち込んでいると思ったんだろう。
いつも声をかけてくれた。
口癖は
“何かあったら俺に言え”
お兄ちゃんのような存在だった。
頼りになって、優しくて、頭が良くて・・・・・・かっこいい。
小学生の頃に初めて片桐さんに会って。
中学1年の夏に恋をして。
冬が始まる少し前だった。
ちょうど今頃だったかな。
お母さんが亡くなって少しした頃。
お母さんのことを思い出して泣きそうになっていた私の肩を抱いてくれた。
店の裏で夕暮れを見つめながら言ってくれたんだ。
“大人になったら俺のお嫁さんにしてやるよ”
その一言で笑顔になれた。
今から思えば、片桐さんは私の気持ちを知っていたのかもしれない。
元気を出させる為にそんなことを言っただけ。
約束でも何でもない。
ただの軽い冗談。
そう言い聞かせても、ちっとも私は納得できなくて。
この歳になってもまだ、信じている。
だから・・・・・・恋ができない。
片桐さん以外の人を好きになることができない。

