「お前、助手席、こねーか?」





前を向いたまま静かに片桐さんがそう言った。




「助手席に座ってもいいの?」




「バカだろ、お前。俺がひとりだと寂しいんだよっ」



何となく、助手席=彼女って感じがしていた。





少し近付けたのかな。




こんな片桐さん、今までは知らなかった。



案外寂しがり屋で、甘えん坊。







車の中は片桐さんの匂いがした。




後ろの席ではわからなかった。



多分、康子が酒臭かったんだよね。





「今日は本当にごめんなさい。助かりました」




「ふふ。お礼に、俺を癒してくれる?」




「え?さっき、お礼はいらないって」





恥ずかしくてそんなことを言ってみるけど、泣いちゃうくらいに嬉しい言葉だった。






「康子ちゃんはいらないけど、優海からはちゃんともらう」





もう“優海”って呼び捨てにも慣れてきた。




心地良い。






「何をすればいいの?」





「ちょっと夜のドライブでもしねーか?もちろんマスターには許可取ってある」





夜のドライブ。



恋人同士みたい。







ドライブは、好きな人とじゃないと楽しくないって康子がよく言ってた。



その通り。


私、今すごく楽しい。





でも、今までの経験ではドライブは楽しくなかった。




数回あるデートは全部、沈黙に耐えきれずに途中で気分が悪くなったっけ。






相手が好きな人じゃなかった。




ずっと片桐さんを好きだったから、今までの男の人は全部“好きになろうとした人”だった。






結局無理だったけど。