――しばらくして…見慣れた一軒家に着いた。
「樹里、着いた。」
ドクンドクンと心拍数が増していく。
廉はシートベルトを外し、既に出る準備をしている。
あたしも早くしなきゃ!
そう思うのに…
体が言うことを聞かない。
「樹里、大丈夫か?」
廉は心配そうにあたしを見る。
ダメだよ、あたし。
廉にまで心配掛けちゃ。
「だ、大丈夫だよ!ほら、早く行こ――…っ、」
いきなりグイッと手首を掴まれ、一気に顔が近付いた。
「ん……」
優しく重なる唇。
廉は決して舌を入れようとはせず、ただただ……あたしの唇を味わうように、撫でるように口付けを交わす。
まるで…お姫様にでもなった気分だった。
「大丈夫だ。俺がついてる」
廉はニッと微笑み、あたしの髪を撫でる。
――そうだよね。
あたしは1人じゃない。
だから……頑張れる。
「うん。行こう」
あたしはシートベルトを外し、外に出た。
もう……過去に囚われたくない。

