「でも哲平君、どんな心境の変化なんだろうね」


玉子焼きにお箸を突き刺しながら、翼がふいに呟く。


そのお弁当は、市販のものではなく、手作りだった。


一人暮らしなのに、ちゃんと自炊してるんだ。


「う〜ん」


昨日の話し合いは、あたしにも予想外で。


「自分もホストやからちゃう」


少し間を空けて、そう答えたあたしに、翼はそれ以上何も聞かなかった。


心境の変化か…


何となくその言葉が、胸に引っかかった。


「そうだ、次の出勤いつにする?」


午後の授業を15分後に控え、ベンチから立ち上がるあたしに、翼が尋ねた。


「明日行こうと思ってる」


「了解!店長やお客さんに言っとくよ!」


笑顔で頷く翼に笑い返し、あたし達は互いの教室に向かって歩き出した。


明日、もう一度あのお店で働く。


1回目のように、良いお客さんばかりに当たるとは限らない。


嫌になるかも知れない。


辞めたくなるかも知れない。


でも、それならそれでいいと思った。


少しずつ灰色の雲が増えていく空を見上げながら、僅かに射し込む光を見つめる。


雨は嫌い。


曇りも嫌い。


何だかテンションが下がるから。


早く梅雨なんか、明ければいいのにな…