あれから1時間ほどが経った頃。


今日はもう鳴らないと思っていた、哲平の指定着信音が、部屋中に響いた。


本当はすごく待っていたくせに。


あたしは何秒か携帯を見つめ、軽く深呼吸をしてから、携帯を手に取った。


「もしもし」


「ちゃんと家に帰ってるん?」


普段よりも低い声の哲平。


それは寝起きだからなのか、不機嫌だからなのか、どっちなんだろう。


「うん、すぐ帰ったで」


「そっか、ならええわ、心配やったし」


電話から漏れる、テレビの音。


何だか、高校生の頃を思い出す。


最近こんな時間に、お互いが自宅にいる中で、電話した事があっただろうか。


平日は、哲平は仕事だし。


日曜は、帰って来た事をメールするだけ。


あの頃は、今は何をしてただとか、こんなテレビを見てただとか。


毎日会ってたくせに、つまらない事で長電話をしてたっけ。


あれから3ヶ月しか経ってないのに、驚くほど状況は変わってしまった。


押し黙る哲平は、今何を思ってるんだろう?