数日前、あたしは初めての同伴をした。


その初めての同伴相手は、斎藤さんにお願いした。


あたしにとって彼は、全てにおいて初めての人だから。


行ったお店は、某ホテルの35階にある、フランス料理のお店だった。


そこに一歩足を踏み入れた時から、今までに経験した事のない雰囲気に、あたしの胸はドキドキと高鳴っていた。


例えば、ホテルの中のレストランに来たのだって初めてで。


席まで案内されると、椅子を引いてくれる事にだって驚いた。


窓の外に映るミナミの夜景は、ここから見るとおもちゃ箱みたいで。


何だかすごく大人になった気分だった。


「ワインでも飲もうか」


斎藤さんはそう言って、赤ワインを注文すると、「何か食べたい物があれば、頼むといいよ」と、メニューを差し出した。


メニューを開き、まず愕然としたのは、料金の事だった。


座ってすぐに、シェフが確認を取ったコース名。


その名前の料金の部分を辿ると、19000円とあった。


あたしは黙ってメニューを閉じ、「緊張で喉を通らないかも知れない」と、伝えた。


そんなあたしに、斎藤さんは、「俺もミライちゃんと一緒で、緊張してるよ」と、笑っていた。


他の人が言えば、身構えてしまう台詞も、彼が言うとストンと胸に響く。


遊び慣れているようだけど、決して軽くは見えない。


ガツガツもしていないし、下心があるようにも思えない。


翼はそんな彼を、好きななっちゃいそうだね、と言っていた。