カスミの父がある事に気付く。

「みんなの花の中には・・・カスミがいるんですね」

そう。様々な花の中全部にカスミがいる。そして・・・

「これだけは・・・カスミソウだけなんですね」

カスミの父がさした場所にはカスミソウだけが揺れている。武が・・・持ってきたものだった。

武はあれから花屋に急いだ。カスミに何が欲しいと聞くといつもカスミは「カスミソウ・・・」と恥ずかしそうに言ったからだ。

「武君が・・・来るたびに持ってくるから、増えてるんです」

あの後武は何度か家と病院を往復していた。そして病院に訪れるたびにカスミソウを持ってくる。一回は武の母と来ていた。武から話を聞いたのだろう。カスミの前で泣きくずれていた。

「武君が・・・謝りたいと・・・」

武のせいだけではない。しかしきちんと謝りたいと言っていた。武も武の母も・・・

「謝って頂く理由がありませんよ」

カスミの父は悲しそうに目を伏せる。父親として武の行動は怒りが湧く。けれど責める事も出来ない。自分も同じことをして家庭を壊し、こうなる原因を作ったのだから・・・そして・・

「カスミを支えてきたのは間違いなく武君でしょう・・・あの子がいなかったら、もっと前にカスミは・・・」

言葉は続けなくても分かる。カスミはもっと前にこの世を去っていた・・・。

それが分かるように、武が来ると少しだけカスミの顔色が良くなる。

「武君にお礼を言う事はあっても、責める事はありません。あの子が生きていてくれるのは彼のおかげなのだから・・・」

父として・・・友として・・・自分たちではカスミを支える事はできなかった。その事実は酷く辛いものだった。けれどそれ以上に、カスミが一人でなくて良かったと思う。武と言う存在がいてくて・・。

「人は一人では生きていけないんですよね・・・」

さくらが呟いた。

「昔カスミが言っていたんです。カスミソウはお父さんの好きな花なんだって。だからカスミってつけたんですよね?」

覚えていたのか・・・とカスミの父は目を見開く。