……転落したかに見えた。 しかし、崖の淵に前脚の爪を突き立て、ぎりぎりで踏み留まった。 胴体の後ろ半分などは淵から完全に落ちてジタバタしている。 ……チッ。 そのまま落ちちゃえば良いのに。 犬だけに、『猪』突猛進じゃあないわけね。 煙と化した黒香は、あたしの指輪へ吸い込まれるように戻ってきた。 しばらくは再召喚できない。 オルトロスをこのままにして、黒香で逃げだす事もできない。 「仕方ないなあ」 あたしは木から飛び降りて剣を抜いた。