君を感じて生きる世界


彩は急にとられたことに、怒っているのか驚いているのかわからないが、小声で怒鳴り、左手でイヤホンを取り返そうとしてきた。

僕はその手を右手でつかみ、音楽を聞くことにする。聞こえてきたのは、アニメ好きには有名なアニメソングだ。


頭がいい人は真面目な人でアニメをあまりみないと思われがちだが、そんなことはあり得ない。逆に頭のいい学校にいくほどオタクのような人が増えていくはず。

僕も彩も一種のオタクだというこだ言っておこう。僕の場合フィギュアこそ買わないが、小説、マンガ、DVD、CDなどは好きなものならすべて揃えようとしている。金が今はないが。

彩はとにかく気に入ったらフィギュアもグッズも何でも買ってしまう。その資金が尽きるのを見たことがないくらいだ。


「いいじゃんかよー。今日ケータイ忘れて暇なんだよ」

「知るか!自分が悪いじゃん!」

確かにその通りです。はい。言い返せる言葉もありません本当は。でも引き下がるわけにはいかない。暇だから。

「そうだけどさ。彩が音楽聞くと話せないし、だったら同じ音楽を聞きたいなーと。暇だし」

最後の一言は聞こえないようにボソッと言った。


なぜか彩は、ボフンと音が聞こえるような勢いで顔が真っ赤になり、イヤホン奪還に燃えていた左手の動きが止まる。

「ななな、何言ってんの!?とにかく返して!」

「あ」

気づいた頃には時すでに遅し。左手の動きが止まって油断していたため、ひょいっとイヤホンを取られてしまった。

でも何なんだあの焦りようは。今までで一番冷静さを失っていた気がする。いや二番目くらいか?フィギュアを見てるときの彩には冷静さの欠片もないだろう。あと音ゲー中の彩もか。

「急に取るのやめてよね。びっくりするから」

「じゃ音楽聞かせてください」

「イヤ」

彩はイヤホンをつけなおしながら僕の願いを、拒否した。いつものことだけど。


そこからはあまりに話さなかったが、イヤホン争奪戦?(そんな激しくないか)のおかげか、緊張が和らいだ気がする。