「旦那様ー!!」






風と光と音が共に消えていく。





僕には何もない。






また独りでさ迷って終わる…。





そんなふうに絶望した。





体の力が抜けるまで、痺れと快楽に飲み込まれていく。





髪に隠れた耳飾りが血を求めて…。





「レイ…。」
小さな声が聞こえた。






僕を糧にしていいから…。どうか…。






笑い声が風と共に流れていた。





それから意識を手放した。






あの日…。暗闇から救ってくれたのは…。気まぐれな風見鶏だった。






暗く薄暗い路地裏…。一番最初の記憶。
誇りと泥の道は空気が悪かった。





その内、人買いに連れて行かれ。
逃げ出し、気がつけばまたあの路地裏にいた。






自分が誰かも何者なのかもわからない。知らない。
人かもわからない。
人買いに連れて行かれ、鎖をつけられる。
家畜なのかもしれない。





路地裏の暗闇にうずくまっていると空の月が紅い。
紅い月は大きい。






月に照らされた空飛ぶ人影が見えた。
一人…。また一人…。
増える点々は…。
黒く見えるほど増える。





先頭の点から何が…。






後ろの黒く見えるほど増える人影が…。消えた。





ひとつの点が近づいて…。
紅い月に照らされた。翡翠の瞳が綺麗に輝いていた。





感情のない表情で少年は血まみれの人影を見ていた。






翡翠の瞳が近づいて来る。足元に木枯らしが吹いていた。






血まみれの人影はクルクルの頭に翡翠の瞳。






じーと此方を見つめた。





少年も見つめられるままに見つめていた。






翡翠の瞳がオパール色に白濁していく。






後ろの黒く見えるほどまた点々が近づいて飛びかかって来た。それは人ではない。





大きな音がし、全ての頭が切り離されていた。






それでも少年は全てを見ていた。






風が舞っている。
血のニオイを乗せて…。





フワリと目の前に降り立つ翡翠の瞳。
人ではない。






「名はなんという?」






少年は何を言われたのかわからなかった。






黙って考えていると…。





「名はあるのか?」






翡翠の瞳は血まみれの顔を近づけて聞いた。