そして薔薇の香り…。






夜にまた天馬が現れた。





夜の闇に紛れて巡回のシスターを横切る。





祭壇には誰もいない。
礼拝堂は静か。






薔薇の香りに誘われて小さな扉に手をかける…。





「あれ?」





それはなくなっていた。





仕方なく、礼拝堂の十字架に祈りを捧げて帰ろうとした。





月に照らされた光と音が近づく。





それはスケルトンな黒い天馬。





消えていく。






近づくと鏡があった。





触れてはいけないものに人は触れてしまう。
助けてはいけないものを助けようとし自ら犠牲になる。





またそれも歯車が絡み合うきっかけ…。





己が決めた選択…。






薔薇の香りのする小さなシスターは鏡に触れた。





波紋のように揺れる表面。金の蔦がゆっくりと鏡を縁取り、見事な薔薇の華が咲いていく。





鏡の上にには宝冠と紅い星…。






金のクラウンに紅い星。
銀のティアラに蒼い星。





「黒い十字架…。」






見えないものが見える少女は鏡の封印を解いた。





「待っていた…。」






「あなた…。誰?」






物怖じしない少女は聞いた。





「化け物と言ったらどうする?」






「それは私も同じだから…。」





薔薇が咲き乱れていく。血と魂が反応していた…。





「私は…。ソワレ。」





凛とした声が聞こえた。




月下に黒い天馬が夜空を駆ける。





少女の両耳には黒い輝き。






黒い十字架に触れてはならない。






魔物が封印されている。





魔物に食べられてしまうよ。





闇に溶けてしまうから…。





決して触れてはならない。






祭りの時には…。魔物が迎えに現れる。






一輪の薔薇を求めて…。